職場のメンタルヘルス対策最前線

先進企業の取り組みの紹介

(株)島津製作所
専任の臨床心理士が、タイムリーにカウンセリングを実施。
産業医による睡眠セミナーでセルフケアの後押しも

従業員のメンタルヘルスを守り、業務効率を高めることは、企業にとって重要課題の一つ。日本を代表する機械メーカーの島津製作所は、2010年頃から本格的な対策を始めました。従業員が相談しやすい環境を整え、復職者の再休職率を3分の1程度に抑えています。京都本社の境浩史氏と、東京支社の横山泰久氏に、それぞれの現場の取り組みと課題を伺いました。

当記事はインタビューの前編です。

Interviewer

  • (株)島津製作所
    人事部マネージャー
    境 浩史
  • (株)島津製作所 東京支社
    総務部シニアマネージャー
    横山 泰久

まず、社内の現状からお聞かせください。メンタル不調の従業員数はどのくらいでしょうか?

島津製作所本社で働く従業員約3200人のうち、長期欠勤や休職、あるいは休職から復職して嘱託産業医のフォローアップを受けている者は10~20人で推移しています。長期欠勤にまで至らないまでも、メンタル不調で産業保健スタッフに相談している者は50人に1人くらいの割合です。

メンタル不調に至る原因はどのようなものですか。

もっとも多い診断名はうつ病や適応障害で、ほかには双極性障害(従来の躁うつ病)で精神障害者手帳を取得している者もいます。原因の一つは、仕事上の悩みです。技術職特有かもしれませんが、完璧主義のような傾向が強く、自分の理想とする仕事のレベルに到達できないことで落ちこんでしまうケースがよくあります。当社は多品種少量生産で一人の技術者が担当する製品数が多いため、上司が仕事を調整しようにも、なかなか難しい状況です。

一般的に多いとされる、人間関係によるメンタル不調はいかがでしょうか?厚生労働省が2017年に発表した調査結果では、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は32.5%にのぼります。

当社でも、世間一般と同じような比率ではないかと思われます。ただ、どこからがハラスメントなのかという線引きははっきりしない面があります。よく、昭和生まれの人は怒鳴られることに耐性があり、平成生まれの人は「とんでもない行為」と受け取ると言われますが、社内でヒアリングを行っても耐性のある人とない人の差が大きいようです。

では、そうした状況において、どのようなメンタルヘルス対策をとっているのでしょうか。

もっとも特徴的なのは、専任の臨床心理士を配置していることです。2010年頃から京都の本社内に配置し、従業員のカウンセリングを行っています。月2回は、東京支社にも出向いています。従業員は社内にいながらタイムリーにカウンセリングを受けることができ、費用もかかりません。

横山

臨床心理士も当社の従業員ですから、社内の事情をよく知っており、話が早い点も強みです。実際に、社内の臨床心理士のカウンセリングを受けて、復職を果たした従業員もいます。

プライバシー保護のため、誰がいつカウンセリングを受けたかといった情報は、人事部等でも把握できません。そのため、社内に臨床心理士がいることの効果は、なかなか評価しづらい点は課題です。

昨今、話題になっている長時間労の削減はいかがですか?

京都本社の工場では、残業時間を月5時間までにすることを目標にしています。今のところ7時間ほどですが、年々、短縮傾向にあります。2017年より「リフレッシュデー」という名のノー残業デーを設けました。週3日あり、月曜日はスキルアップデー、水曜日はヘルスケアデー、金曜日はコミュニケーションデーとテーマを定めています。
もともとは、残業をせずにそれぞれのテーマのために時間を使って仕事の成果を高めようという取り組みでしたが、結果的にうまく労働時間短縮につながっています。また、最近は介護などで出社できない従業員も柔軟に働けるように、在宅勤務などの仕組みも作っているところです。

横山

東京支社は、また状況が異なります。大部分の従業員は営業職で昼間は外出しているため、資料作りやミーティングなどは夕方から始まることが少なくありません。月30~40時間ほどの残業があります。ただし、IDカードで建物の入退出時間を厳密に管理しており、本人の残業申告の時間と乖離がないかどうかをチェックしています。一定の残業時間に達した者は、担当上長に残業を軽減するように総務部から申し入れをします。残業が多いためにメンタル不調に至っている者はほぼいないのではないか、と思っています。

厚労省の指針で定めた「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」が充実しているのですね。ほかにセルフケア(本人によるケア)とラインケア(上司によるケア)のための対策も行っていますか?

横山

セルフケアとしては、2018年度より東京支社が独自に睡眠セミナーを始めました。嘱託産業医の精神科医が睡眠を専門の一つとしていることもあり、従業員に向けて睡眠とメンタルヘルスの関係について話してもらっています。今後は、計測器で睡眠時間などのデータをとり、希望者は外部の臨床心理士からアドバイスをもらえるようにする予定です。

ラインケアに関しては、新任の管理職向けの研修を実施しています。しかし、基本的に座学です。実際に部下がメンタル不調に陥った際にどうするか、ロールプレイを取り入れた研修ができるといいのですが。

横山

東京支社では、ある営業グループがロールプレイのコミュニケーション研修を実施したことがあります。丸2日間の研修で、10人ほどが参加しました。Aさんは課長、Bさんは部下などと役割を設定して参加者が演じ、コミュニケーションの良い点、改善すべき点などをみんなで評価し合うのです。仕事の指示の出し方や、話す時の表情などを客観視でき、日々のコミュニケーションに活かされているようです。